バトスピの世界観

契約編:界の世界観

第1章 エピソード3:ウィズ

 

契約者カイに指定された「ポイント・ゼロ」へと向かったトアたち一行。そこは、見渡す限り一面の岩の荒野が広がっていた。そして、どうやってできたのか、見上げる様な岩のアーチが眼前にそびえている。異様な光景に圧倒されるトアたちの前にカイが姿を現す。

「やぁ、巫女殿、よく来てくれたね。私の招待に応じてくれて、心から感謝するよ」
「それは、どーも。ホントは、あんたのゲームになんて乗りたくなかったんだけど、ここって、レジェンドスピリットが落ちた場所でしょ。来ざるをえなかったっていうのが正しいわね」
「そこまで分かっているとは話が早い。ここから北に進んだ先にひときわ大きな岩のアーチがある。そこに、レジェンドスピリット“巨神機トール”が眠っているよ」
「へぇ、そんなことあたしたちに教えちゃっていいの?」
「構わないさ。そこへたどり着くまでに私の仲間が君たちを待ち構えている。それが、今回のゲームさ」
「はぁ、そんなことだろうと思った……ん? ということは、今はあんたを守るスピリットはいないってこと? じゃあ、ここであんたを倒しちゃうってのもアリ?」
「フッ、それができるのなら、ね」
「……やめとく。な~んかフェアじゃない気がするし、あたしたちの目的はレジェンドスピリットだしね」
「賢明な判断だ。それでは、ゲームを始めるとしよう。ルールは簡単だ! 今から日が落ちるまでに、この先にいる私の仲間を倒し、レジェンドスピリットの元へたどり着ければ、巫女殿の勝ち。レジェンドスピリットは譲ろう。だが、そこまでたどり着けなかった場合――当然レジェンドスピリットは私のものになるが、巫女殿には、ダンの救出をあきらめてもらう」
「何を言っている! そんなこと、できるわけないだろうっ!」
「いいよ、ウィズ。レジェンドスピリットを取れなかったら、どのみち、ダンの救出もできなくなるし、あたしには心強い味方が3人もいるんだから」
「任せてくれよ☆ユア・マジェスティー。そして、ホワイトリザードくん」
「うん~、任せて任せて~。ドカ~ンとワタシやっちゃうよ~!」
「二人とも……そうだな。僕たちが負けなければいいだけだ」
「うん! いくよー、みんなー!」
「それでは、健闘を祈る。私はゴールの先で待っているよ。ふははははははっ」

そういうとカイは不敵な笑い声と共に姿を消した。トアたちはレジェンドスピリットを目指し、足早に第一関門へと向かう。そして見えてきた第一関門。そこで待ち構えていたのは、「見上げる雲塊」で出会ったカイの契約スピリット、フェルマ・シーラムであった。

「お待ちしておりました、契約の巫女トア。今回はこのような余興に巻き込んでしまい、誠に申し訳ございません」
「え? いやいや~、そんな、あたしたちも結構ノっちゃってたというか……そんな畏まらないでよ」
「そういって頂けるとわたくしも、少し気が楽になります。では、気を取り直しまして、 今回は本気でいかせて頂きましょう……裏契約煌臨」

魔女姿のフェルマが無数の星に包まれ白いドレス姿に変わっていく。

「あらためて名乗らせて頂きます。わたくしは星数賢者フェルマ・シーラム・Q.E.D.。 あなたの動き、すべて計算し尽くしましょう。そして、わたくしの勝利をより盤石なものに」

フェルマが手に持った書物を開き、そこから複数のスピリットが飛び出してきて、最後に角を持った雄々しい獣が姿を現す。幻獣王リーンだ。フェルマとレジェンドスピリットを同時に相手取るのか。そんな杞憂を吹き飛ばす様にトア側からはフラウが名乗りを上げた。

「は~い。ワタシがやっても、い~い~? ここはオンナのコ同士~、勝負~!」
「よーし、やっちゃえー、フラウー!」
「ミーはレディに手は出せないからね☆君が適任さ」
「フラウ、君ならできる。君の槍の腕なら」

フェルマとフラウの戦いが始まる。フラウは手にした槍でフェルマに斬りかかり、森の仲間を呼び出していく。契約スピリット同士の戦いは、一進一退を続ける。しかし、リーンがその均衡を崩す。2対1は厳しいかと思われた時、フラウがカイザーアトラス皇帝を契約煌臨させる。さらに、フラウの持つ翠花槍ブルーム・ステムもカイザーアトラスに合わせて巨大に生長する。槍を持ったカイザーアトラスは、フラウを思わせる軽やかな槍捌きでリーンとフェルマを追い詰めていく。果たして、槍の一撃がフェルマの眼前に迫る。

「……ここまで、ですか。リーンとの連立方程式も破られてしまいましたね。お見事でした」
「ん~ん~、フェルマもリーンもとってもスゴかったよ~。勝てたのは、この子――ブルーム・ステムのおかげかな~」
「それがあったから、わたくしの計算を超えたのです。十分スゴイことですよ」

トール争奪戦の第1戦目はフラウの勝利となった。これはゲーム、戦いの後はノーサイドということで、力を出し切ったフェルマとフラウは、その場に残ることとなり、トアたちはオボロが守るという第二の関門へ向かうのだった。

「待ぁ~ちぃ兼ねたぞぉ~ぅ。拙者とぉ~死合うのはぁ~、誰ぇ~かぁ」
「ここはミーが出よう☆ 龍皇の力使いこなせてきたところなのさ」
「よーし、ガット、あんたならやれる! がんばれー!」
「ここはお前に頼むしかない……負けるなよ」

オボロが刀を地面に突き刺し、何かつぶやく。その陰から、黒い異形のスピリットが姿を現す。

「レジェンドスピリットぉ~、魔界七将ぉ~デストロードぉ~、参られいぃ~!」
「やっぱり持ってた!? また2対1かぁ、でも龍皇ジークフリードの力なら……」
「OKOK、ノープロブレムだ。フラウの戦い方を見ていて、思いついたことがある。メイビー、ミーにもできる」

ガットは腰に差した2本の剣を指に通し、剣を回転させ始める。

「これがミーの本当の戦い方さッ!」
「ぬぅ、小癪なぁ~。そのような剣の使い方ぁ~、拙者はぁ認めぬぅ~」

ガットの剣の回転をオボロは難なく捌いていく。しかし、ガットの剣の勢いも止まらない。左右の剣を器用に操り、オボロとデストロードを寄せつけない。これでは埒が明かないとオボロが裏契約煌臨を行い、それに対抗してガットも龍皇ジークフリードを契約煌臨させる。
そして今度は、ジークフリードの手にガットの双剣、廻天刃ツヴァイザーが握られている。

「やはり、ミーのツヴァイザーもエンゲージブレイヴだった!」

ジークフリードがガットと同じく剣を回転させ、ゴク・オボロとデストロードに斬りかかる。ガット――ジークフリードの勢いは止まらず、トール争奪戦第2戦目はガットの勝利で決着となった。

「無念……珍妙なぁ剣のぉ使い手よぉ~。完敗でぇ、ござぁるぅ」
「謙遜しなくてもいいのさ☆ミーもリミットギリギリのバトルだった……」

疲弊したガットとオボロを残し、トアとウィズは先へと歩を進める。トールはもう眼の前にまで迫っている。さらに進むとトールの足元に人影が見えてくる。カイだ。

「素晴らしい。よくぞフェルマとオボロを超えてやってきた。最後の相手はこの私だ。今回は巫女殿のために、特別ゲストを呼んでいる。大審判官ゲフェン・グニス殿だ」

カイの呼びかけに呼応するように空間が歪み、そこから、巨大な鍵を持った大柄なスピリットが姿を現す。

「俺は、ザ・ジャッジメント様より審判の牢獄を預かる大審判官ゲフェン・グニスであるッ! ダンを救うとのたまうのはそこの小娘か?」
「審判の牢獄!? レジェンドスピリットを集めてそこに行こうとしてたのに、そこから来ちゃったの? というか、これはチャンスだね。ウィズ、準備はいい?」
「ああ、いつでもいける。あまりに出番が無くて体がなまっていたところだ」
「ダンは牢獄の奥で眠ってもらっている。ダンが存在することで世界が崩壊する。すべての世界と隔絶した我が牢獄にいることが世界のためになるのだ。小娘、そのことは理解できているのか?」
「世界が崩壊……? ダンはレクリスと世界救済契約を結んでる。世界を崩壊させるのはカイの方でしょ!」
「ゲフェン・グニス殿、あまりいじめるのはかわいそうですよ。何も知らないということは幸せなことなのですから」
「ふむ……ザ・ジャッジメント様の深淵なお考えは、お前には少し難しすぎるのかもしれぬな」
「なんですってぇ! なんと言われようと、あたしはダンを救って世界も救う! いくよっ、ウィズ!」

トール争奪戦の最後の戦いが始まる。ウィズの剣、星零剣フォーアンサーとゲフェン・グニスの鍵の様な武器が無数に打ち鳴らされる。剣の腕だけでいうならばガットよりもウィズの方が上だ。ゲフェン・グニスに反撃の隙を与えない。が、ゲフェン・グニスも焦る様子を見せずに冷静に受けているように見える。ウィズはブレイヴエンゲージを使い、流れを引き寄せにかかる。と同時に、ゲフェン・グニスも動く。

「ドローロック! ここは牢獄。すべての動きを封じる!」
ゲフェン・グニスの束縛の力がウィズを包み込む。ウィズのブレイヴエンゲージがロックされる。これを境に戦いの流れがゲフェン・グニスに傾く。
「ふははははッ、思うように動けまいッ! レジェンドスピリットを持たぬ契約スピリットなど、俺の敵ではないわァッ!」
「クッ、レジェンドスピリットだけがすべてじゃないはずだ……レジェンドスピリットが無くたって……僕は戦えるッ!」

そのとき、ウィズの叫びに応えるように、トールが目覚め、ウィズに契約煌臨する。

「……僕にトールが、契約煌臨した? トール、力を貸してくれるのか? 今までに感じたことのないパワーを感じる……アイツら、こんなスゴイ力を扱っていたのか。これならいけるッ!」

トールのハンマー、ミョルニールがゲフェン・グニスに向けて振り下ろされる。轟音と共に岩の大地が割れ、敵を押しつぶす。なんとか耐えたゲフェン・グニスだったが、戦闘の継続は難しそうだった。

「おのれッ、俺はまだやれるぞッ! 審判の力……こんなものではないぞおおおぉぉぉ!」
「はい、そこまで。ゲフェン・グニス殿、勝負の行方は火を見るより明らかですよ。これ以上続けても美しくない。ここは彼らに花を持たせると思って、ね。」

トールと満身創痍で息を巻くゲフェン・グニスの間に、ひょうひょうとカイが割って入る。
その間際、カイが耳打ちをすると、ゲフェン・グニスは態度を軟化させた。

「フンッ……まあ、いいだろう。お前たちがどういう決断を下すのか、見てみたくはある。審判の牢獄で待っているぞ、小娘、そして、ウィズよ! さらばだ」

そういうとゲフェン・グニスは空間を歪め姿を消し、後に残されたカイがこちらに近づいてくる。

「巫女殿、レジェンドスピリットの順番が多少前後してしまったが、ゲームは君の勝ちだ。おめでとう。巨神機トールは預けておこう。いずれ貰い受けるがね」
「いつでもかかってきなさい。あたしとウィズとみんなで、あんたなんて返り討ちにしてやるんだからっ!」
「おお、それは恐ろしいな。ふふっ。お互い、レジェンドスピリットを求める身だ。また近いうちに会うことになるだろうけど、今日のところは、これで退散させてもらおう。ダンの救出がどんな意味を持つか……機関に聞いてみることをお勧めするよ」

ゲフェン・グニスとカイの言葉は気にかかるが、今は、カイとのゲームに勝利し、レジェンドスピリットを手に入れられた。レジェンドスピリットの力の先にダンの救出、そして世界の救済があると信じて、今は進むしかない。トアとウィズは、お互いに意思を確認し合う。そして、ウィズは改めてトアに宣言するのだった。

零相棒ウィズ
「トア、どんな敵が襲って来ようと……僕は負けない。君は……この身に代えても、僕が守る……約束だ」
零相棒ウィズ