バトスピの世界観

契約編:界の世界観

第2章 エピソード2:パルム

ドミナネリオ魔法学校で、おとぎ話に出てくる幻の村「召喚士の隠れ里ジル・ジバリュー」が姿を現したという噂を聞いたトア。校長のヴァーズロイから、それがレジェンドスピリットと関係している可能性が高いと教えられ、カミュを仲間に加え、召喚士の隠れ里を目指すこととなった。

野を越え、山を越え、紆余曲折の末、隠れ里を見つけだしたトアたちは、そこで、黄色いローブに身を包んだ一人の召喚士の少年と出会うことになる。

「ここが召喚士の隠れ里かあ。なんだか、空気が違うっていうか、重い?」
「……魔力の密度が濃い……いや、ここは薄い……あっちは濃い……チグハグ」
「ここ、なんだか懐かしい感じがする~♪ でも、誰もいないのは寂しいね~」
「こんな険しい山の中にある里だ。人が寄り付かないのは分かるが、村人が一人もいないのは、おかしいな」
「と、思うダロ? どうやら、そうじゃないらしいヨ☆」
「あ、あのぉ~。み、皆さん、こんな辺鄙な召喚士の隠れ里に何か用事でも?」

トアたちが出会った少年はパルムと名乗った。彼は召喚士の隠れ里で暮らしている召喚士だという。里に異変が起きたときに村人が消え、一人取り残されたということだった。

「え~と……あの日、空から天使様が墜ちてきたんだ。そうしたら、里からみんなが消えちゃって……」
「空から天使が墜ちてきた? それって、レジェンドスピリット!?」
「……可能性は高い」
「天使様かあ~。きっと綺麗な人なんだろうな~♪」
「ミーもその天使様と契約したかったゼ☆」
「レジェンドスピリットには相性がある。ガットが天使と契約できるとは思えないな」
「ふさふさのウィングがあるだろ。ツルツルなユーのとは違うナ」
「でも、村の人たちが消えちゃったってのが謎だね。みんなでどこかに避難したのかな?」
「お、おいらを残してみんなで逃げるなんてないと思うんだよね。どこに行っちゃったのかな……みんな」
「パルム~、元気だして~。わたしたちが村の人探すの手伝ってあげるよ~」
「……人探しの魔法を知っている。ウチたちに任せるのが正解」
「うん! ここで出会ったのも何かの縁だよ。あたしたちも協力する!」
「め、女神だ……おいらの目の前に女神が三人いる」
「ミーたちも、手伝うけどナ。なぁ、ホワイトリザード?」
「うむ……僕らは眼中にない感じだな……」

空から墜ちてきた天使と消えた村人の謎を追うため、トアたちは召喚士の隠れ里の調査に乗り出す。里は、幾つもの島が階段で繋がれている構造をしており、その島ごとにまったく違う風景が広がっていた。

「なんだか統一感が無いというか、見た目、バラバラだねぇ。目がチカチカするよ」
「元々はこんなじゃなかったんだけど、天使様が墜ちてきた日に、こんなことに……前はもっと素朴な感じだったんだけどな……」
「ここ~、穴が開いてる~。底が見えないよ~」
「……フラウ、近づいちゃダメ。それは次元のほころび。落ちたらどこに跳ばされるか分からない」
「あわわわわ~、離れておく~」

よく見れば里の至る所に、次元のほころびが見える。地面だけではなく、空間そのものに穴が開いている。まるで虫食いの様だ。次元のほころびを避け、慎重に里の奥へと歩を進めるトアたち一行。すると、その先に人影が見えてきた。

「あっ、人だ! 誰かいるみたいだ! 里の人かな?」
「きっとそうだよ、行ってみよう、お~~~いっ!」

大声を上げ、人影に近づいていくトアだったが……。

「あ~、村人でなくて申し訳ないのだが……やぁ、契約の巫女殿、久しぶりだね」
「うわぁ、その持って回った言い方。こんなところで会いたくなかったよ……カイ」
「……と、ウチの学校に忍び込んだ虫。盗っていったもの、返してもらう」
「はははっ、そんなに喜んでくれるなよ、巫女殿」
「おい、悪魔っ娘、俺を虫呼ばわりとはいい度胸だな。まぁ、アレは俺が持ってないとダメなんだ、まだ返すわけにはいかないなぁ」
「カイがいるってことは、アタリかな? この里に墜ちてきたっていう天使様はレジェンドスピリットなんだね」
「フフフ、御明察。この地に墜ちたのは伝説の大天使ミカファール! なんとしても欲しい駒だよ」
「な~んか、嫌な言い方。レジェンドスピリットはあたしたちに力を貸してくれてるんだ。駒なんて、言っちゃダメだよ!」
「フフフ、青いな巫女殿は。綺麗ごとだけじゃ世界は救えないというのに……」
「まぁ、いいだろう。では、今回もゲームで雌雄を決そうではないか。そうだな……この先は、次元のほころびが広がり、天然の迷路と化している。落ちたらどこへ跳ばされるか分からない、飛び切り危険な迷路だ」
「その迷路を先に踏破した者の勝ちだ。簡単だろう?」
「言うほど簡単じゃないよね、それ」

カイは口角を上げて応える。

「では、勝負! スタートだ!」

真っ先にガタルが飛び出し、他の者たちもそれに続いていく。

「へへっ、俺は飛べるんでね。おまえらはゆっくり来ていいぜ」
「……待てっ! 虫」
「ミーも空から失礼するヨ☆ あの虫は任せてくれ!」
「む~、ワタシは地道に進むしかないか~。分かれ道にきたら、棒を倒して進む方向を決めるんだ~♪」
「行こうトアっ! みんなに遅れを取るわけにはいかない」
「うん、みんな気を付けてね! ゴールしたら誰かいないなんて、あたし、やだからね!!」

トアたちはバラバラに迷路を進み始める。空を征く者、法則を考えて進む者、何も考えずに進む者、進み方はみんなそれぞれだ。道は次元のほころびの壁で分断され、先を見通すことができない。空を飛んでいたガタルやガットも真っ直ぐには進めていないのを見ると、空にも次元のほころびがあるのだろう。条件はみんな一緒。己を信じて進むしかないようだ。

――そして。レジェンドスピリット、大天使ミカファールが眠る地へ最初にたどり着いたのは……。

「え? お、おいらが一番? て、天使様だ……これが大天使ミカファール……」

最初にたどり着いたのは召喚士の隠れ里の召喚士パルムであった。そして、他の者たちも次々にゴールへとたどり着く。

「チッ、俺より先に着いたヤツがいるのか……他には誰もいないようだな、ここでコイツを始末しちまえば……」
「……虫。始末されるのはお前」
「だ~~~ぁっ! 悪魔っ娘、お前もいたのか! 分~かった、分かったから、剣の先っちょでチクチクするな!」
「あ~、1着じゃなかったかぁ。誰、誰? 1着は誰なの?」
「……どうやら1着はパルム。虫が2着で、ウチが3着」
「お~、パルムぅ! さすが地元民、やったね!」
「う、うんっ! ありがとうっ。おいら、やったよ!」

勝利を喜び合うトアとパルムとカミュを尻目に、カイも姿を現す。

「おや、随分にぎやかだね。どうやら、私たちは負けたらしい」
「お早いお着きだな、カイ。お前、そんなに本気だしてなかったろ」
「いやぁ~、私はいつでも本気だよ? この里の最後の生き残りの彼が、この地において特別だったというだけさ」

続いてウィズとガットが戻ってくる。

「ここがゴールだな。トアは無事なようだ。あとは、ガットとフラウだけか」
「ミーはここサ☆ 空ならスグだと思ったんだが、とんだデンジャラスルートサ」
「じゃあ、あとはフラウだけか」
「フラワーガールは、楽しそうに道草してたヨ。来るのにしばらく時間かかるだろうネ」
「彼女のことだ、次元のほころびに落ちるなんてことはないだろう……待ってようか」
「ステイだな」

フラウを除いてゴールへたどり着いた面々の前には、レジェンドスピリット大天使ミカファールが眠っていた。近くにいるだけで、その強大な魔力を感じることができる。トアとカイは、そこで今後のことを話し合う。

「勝ったのはパルムだかんね。大天使ミカファールはあたしたちで何とかするってことでいい?」
「ああ、構わないさ。今回は私たちの負けだ。この里がこうなった原因もミカファールにある。存分に調べるといい」
「なんか知ってそうだけど……教える気はないって感じね。いいわ、みんなで調べるから。カミュ、何か分かる?」
「……スゴイ魔力を放っている。次元のほころびの原因は間違いなく、コレ」
「……これじゃあ、並みの魔法はかき消されてしまう。魔力が強いがゆえに、他の魔法を許さない、そんな感じ」

トアたちはミカファールに対して様々な方法でコンタクトを試みるが、反応が返ってこない。それを黙って見つめるカイとガタル。

「ふぁ~あ、退屈だ……なぁ、カイ、そろそろいいか? お前は負けを認めたんだろうが、俺は勝ちにこだわる方なんでな。どんな手段を使っても最終的に勝った側に居ればそれでいいんだ」
「無粋だね。まあ、止めはしない」
「意外とお前もワルだな」

ガタルから契約煌臨の光が溢れ出し、新しい姿となってミカファールへ向かっていく。

「俺は真王シニスター・ガタル! グリューン∴バウムを統べる者! レジェンドスピリットを貰い受ける!」
「ちょっとぉ、勝ったのはあたしたちでしょ、手出ししないって約束はっ!?」
「それはカイが勝手にした約束だッ! 俺はどんな手段を使ってでも勝つ! 転送魔法陣展開! 質量計測…… …… ……完了! ゲート解放! レジェンドスピリットは頂いていくぞおっ!」
「待ってっ! それを……僕の天使様を取らないでっ!」

パルムは背中に差していた杖を構え、様々なスピリットの幻――幻魂を召喚していく。戦国姫、魔導女皇、砲天使、熾天使、そして、大天使。パルムは無我夢中で幻魂を召喚し続ける。それが、眠れるミカファールに大きな影響を与えているとも知らずに。

パルムの召喚した天使たちが共鳴し、ミカファールを包む黄色いクリスタルに亀裂が走る。機械の翼が展開し、その目が開かれる。パルムはその神々しい姿に目を奪われる。

「なんて、綺麗なんだ……ミカファール様は……おいらの……嫁だあああああああああああああっ」

パルムから光があふれミカファールを包み込む。契約煌臨が履行されたことで、あたりの空気が一新され、今までの重苦しさが無くなっていく。魔力が完全にコントロールされているということだろう。そして、その魔力の矛先はシニスター・ガタルヘと向けられる。

「ミカファール様は渡さないっ! お前なんか、どっかにいっちゃえ~~~~~~~っ!」
「クッ、凄まじい魔力だッ! 魔力量が解析できないっ! まだ不確定要素が多すぎる」
「まだだ。これに勝つにはまだ情報が足りない、ここは戦略的撤退だ」
「いい潮時だろう。ガタルが失礼したね。それでは私も退かせてもらうよ。また会おう、契約の巫女殿」

そういうと、またしてもその場から消え去るカイ。ほどなくして、ミカファールから放出される魔力の奔流が収まり、辺りに静寂が戻る。そこは次元のほころびもない、元の姿を取り戻した召喚士の隠れ里の一角だった。

「今のはいったい? お、おいらどうしちゃったんだろう?」
「覚えてないの? パルムってば、あのミカファールを契約煌臨させちゃったんだよ!」
「契約煌臨……?」
「そう、これでミカファールは、契約が破棄されるまでずっと力を貸してくれるってことだよ」
「契約……ずっと……」
「ということは、つまりミカファール様は、おいらの……あぁ、いや、何でもないよっ!」
「? なんだかよくわからないけど、あたしたちの勝ちってことだよ、やったね、パルム!」

勝利をたたえ合うトアたち。フラウも無事合流し、里のはずれにあるパルムの家で一休みし、今後のことについてみんなで話し合うこととなる。カイとのゲームに勝ち、ミカファールと契約もしたが、消えた村人は見つかっていない。里の村人たちは一体どこへ消えてしまったのか。パルムが心当たりを挙げる中、いままで黙っていたカミュが口を開く。

「……一つ、仮説がある。ミカファールが墜ちてきた。ミカファールは魔力を放出し続けていた。その魔力は他の魔法の存在を許さないくらいに強大なものだった」
「……里はその魔力に冒された。それが原因で今まで里の姿を人々から隠していた魔力が消失。さらに、村人までが消失した」
「……魔力が打ち消されただけで、村人が全員いなくなるわけが無い。村人が普通のスピリットなら」
「……ウチは、カイとのゲームのとき、彼が、パルムが里の最後の生き残りと言ったのを聞いた」
「……パルム。あなたは召喚士。幻魂を召喚できる。もしも……」
「待って! カミュさん、それ以上は……言わないで、欲しいよ……」
「パルム~、落ち込まないで~」
「パルム……あの、さ」
「おいら……昔の記憶がないんだ……里のみんなは優しくて、誰もおいらを叱らないし……みんなおいらを褒めてくれて……それはそうだよね……みんな、幻魂だったんだ……」

落ち込むパルム。一同の間に重い空気が流れる。トアでさえもパルムにかける言葉を探しあぐねていた。そんな中、カミュがある疑問を口にする。

「……パルムはいつから召喚魔法を? 村人全員を召喚して維持するなんて、とても一人でできることとは思えない。村人全員が幻魂だったとしても、本当に一人で出来たこと?」
「え……? おいらは師匠に召喚魔法を教わって……里のみんなはその時にはもういて……師匠がいなくなって……」
「……その師匠とやら。何者?」
「そうだ……おいらは師匠に召喚術を教わったんだ。師匠は言ってた。もし、おいらが一人になったときは私を訪ねて来いって」
「それだーっ! きっとその師匠が里の人たちを召喚した張本人! ……かもしれない!」
「……この里の人たち全員を召喚し続けるなんて、とんでもない召喚魔法。名の知れた召喚士では?」
「魔法学校の校長先生みたいな、スッゴイお髭のおじいちゃんかな~?」
「いやあ、とても綺麗な女性だったよ。あ、天使みたいな羽も生えてたなあ」
「ホゥホゥ? そのサマナーマスター、気になるナ☆」
「ガット……お前はふくろうだったのか?」

カミュの一言で、パルムの消えかけた希望の火が再び灯る。落ち込んでいても何も始まらない。それに気づいたパルムはトアに告げる。こうして、トアたちにまた新たな仲間が加わったのであった。

幻相棒パルム
「力を貸して欲しいんだ。おいらは一人じゃ何もできないから」
幻相棒パルム